あの人に聞く「真のワーク・ライフ・バランス」

家族や地域の絆で支えられる両立の日々俳優本上まなみさん

テレビやラジオ,エッセイ執筆など多彩な分野で活躍する一方,二人の子どもの母として育児もしっかりこなされている,本上まなみさん。京都での生活と「真のワーク・ライフ・バランス」についてお話をうかがいました。

【本上まなみさんプロフィール】
1975年東京都生まれの大阪府育ち。池坊短期大学卒。女優をはじめテレビ番組のナビゲーター,ナレーター,声優,文筆家としても活躍中。映画『紙屋悦子の青春』『まほろ駅前狂騒曲』などに出演するほか、著作にエッセイ集『落としぶたと鍋つかみ』など7冊ほか絵本,翻訳絵本も多数。2013年より京都市在住。

本上まなみさん インタビュー

- 長年住んでおられた東京を離れ,現在は京都に拠点を移されていますが,そのきっかけは何だったのでしょうか?

本上 京都にやって来たのは,2年ほど前になります。もともと私が大阪,夫は滋賀と,ともに関西出身。二人とも東京が大好きで,もし子どもが生まれなかったら,ずっと東京に住み続けていたと思います。でも,上の娘が生まれた際,私も夫も,自然いっぱいののどかな環境で育ったということもあり,子どもには自分たちが経験したのと同じ,野山を駆け回れるような自然あふれる環境で育ってほしいという思いが芽生えてきたんです。都会の街中より,もっと身近に自然と触れられる環境に住みたいという思いを抱えながらも,仕事の都合もあり,なかなか踏み切れませんでした。

そのまま数年東京で暮らしていましたが,2人目が生まれることが分かり,上の娘が小学校へ入学するタイミングとも重なったので,これを機に東京を離れようと夫婦で決断をしました。

これからの生活を考えた時,まずお互いの両親のことを考えました。孫にすぐ会えたほうが嬉しいでしょうし,近くに住めば私たちも助けてもらえることが多いと思ったので。移住の候補地として,まずそれぞれの実家に近いところ,そして東京へ通いやすく,自然が豊かな場所がいいねということになり,どちらからともなく,京都に住もうという流れになりました。

そう決めてからは,半年ほどの間に住まい探し,息子の出産,そして引っ越しの準備が一気に訪れて,本当にバタバタでした(笑)。最初は東京の家も残していたので,京都と行ったり来たりしながらの二重生活を送りながら,徐々に生活の基盤を整えていきました。

- 本上さんやご家族の皆さんは環境の変化にとまどうことはありませんでしたか?

本上 京都で短大時代を過ごしていたこともあり,多少の土地勘があったので,生活を始める上でとまどうことはありませんでした。上の娘はずっと東京で育っていたため,最初のうちは,友だちと離れるのが寂しいなどと言っていましたが,小学校で新しい友だちがたくさんでき,半年もしないうちに京都弁まで話すようになりました。生活の変化も違和感なく受け入れて楽しんでいるようで,安心しています。下の息子は生後1カ月で京都にやってきたので,根っからの京都っ子。二人が宝が池公園や鴨川沿いの芝生などで元気よく走り回っている姿を見ていると,自然いっぱいの京都にやって来て本当によかったなと思います。

 

- 仕事では京都と東京を行き来し,忙しい毎日を送っていらっしゃいますが,仕事と家庭をうまく両立させるコツなどはありますか?

本上

特にコツというものはないのですが,一つ挙げるなら,家族からのサポートでしょうか。私にとって仕事は楽しくてやりがいのあるもの。これからもずっと続けていきたいと思っていますし,子どもがいるから仕事を辞めようと思ったことは一度もありません。ただ,毎日決まったスケジュールで働いているわけではないので,仕事が続く時は1週間ほど家を空けることもあれば,ずっと家にいることも。夫は在宅での仕事が多いため,私がいない時はスケジュールを調整し,子どもを見ています。二人とも仕事が入ってしまった場合,東京にいる時は親に上京してもらって子どもを預けたり,ベビーシッターさんを頼んだりしていました。京都に来てからは実家が近く,預けやすくなったので助かっています。家族みんなで子育てを助けてくれて,心強いですし,感謝しています。

学生時代の友だちも多くが近くに住んでいて,ご飯を食べたりしながら,子育ての相談や情報交換などしています。地元の人たちから生の情報が得られるのは,とてもありがたいし,そうした友だちが近くにいることが心の支えになっています。

- 京都には独特の文化があると言われることもありますが,実際に生活を始めて感じたことがあれば教えてください。

本上

今住んでいるのは築100年近くの古い一軒家なのですが,周囲の環境も良いですし,ご近所の皆さんには温かく迎えていただけて,恵まれていると感じています。子ども二人が元気すぎて,この間も気がついたらお向かいのお宅に勝手に上がり込んでしまって,その家の犬と遊んでいたり。騒々しくて皆さんにご迷惑をおかけしていると思うのですが,小さな子どもの声が聞けて嬉しい,町が賑やかになってよかったなどとおっしゃっていただいて……。東京に比べてさまざまな世代の方と触れ合う機会が増え,子どもを見守っていただけるだけでなく,子どもはもちろん私自身もコミュニティの中で学ぶことが多く,成長させてもらっていると感じています。

京都の文化に対しては,小さなひとつひとつがとても興味深く,何だろう?って思うことが今でもいっぱいあります。学生時代には気づかなかったのですが,京都では町の辻々にお地蔵さんが祀られていますよね。ほこらを覗いてみるとお地蔵さんの顔が白くお化粧されているんです。どうしてお化粧しているのか,ゴミ当番や自治会の役員みたいにお地蔵さん当番は家々に回ってくるものなのかなど疑問は次から次に沸いてきます(笑)。そうした謎や疑問があれば,とにかく人に聞いて教えてもらっています。

また地域のイベントなどにも積極的に顔を出し,お手伝いに加わるようにしています。京都に来て初めての地蔵盆が,残念なことに仕事で参加できなかったのですが,帰宅したらお菓子やおもちゃが家にいっぱい。「置いといたよー」って近所の方から声をかけていただきました。何が行われていたのか気になるので,今年こそ参加したいと思っています。

- 最後に,仕事と暮らしを両立させる場として,本上さんにとっての京都とはどのような町ですか?

本上 京都に来てよかったなと思うことの一つが,季節感が感じられる新鮮な食材に囲まれていること。春はタケノコ,夏は鱧と,四季折々の食材が店先に並んでいる光景は,東京では経験できませんでした。近郊で採れた新鮮な野菜が簡単に手に入るのはとても嬉しいです。また,近所の人たちとのふれあいの中でいろいろなことを教わりながら,遠いと思っていた京都との距離が近づいているのを感じます。早く起きた朝はパン屋さんに出掛けたり,お天気の良い日は鴨川沿いを散歩したり。夜はきちんと暗くなるので,お日さまに合わせた健康的な生活が送れる環境ーーそんな京都で日々楽しく暮らしています。